誘拐 ―おまえに決めた―

「それより、早く・・・・・・」

目尻に水分が近づき、眼球に吸収されそうだ。


こめかみから流れるじわっとした動きが気持ち悪い。

まるで皮膚を這う虫のようで。



「わかったよ」

静かに答えたリク。


私の目尻の水分を拭きとるために、リクの腕が近づくのを待つ。



ところが予想に反して、リクの顔が近づく。



「何すっ・・・・・・」



リクの、歯が見える。

綺麗に並んだ白い歯。

目尻に軽くキスをされ、とっさにまぶたを閉じてしまう。



口を開けたリクは、甘噛みするように唇で私のまぶたをつつむ。


ドラキュラが、女性に噛みつく瞬間を見せた映画の1シーンのよう。


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