誘拐 ―おまえに決めた―
「お疲れみたいだね。こっちとしてはその方が都合いいけど」
「何する気?」
「身体拭くだけだよ。言ったろ」
「信用できない」
「いいね。憎まれ口叩く元気出てきた」
リクは私の髪をぽんぽんっと撫でた。
何なの? 一体。
ほんと調子狂う。
「タオル冷めたから、洗面器持ってくるわ」
「洗面器なんてあんの?」
「準備いいでしょ?」
「はぁあ?」
「準備万端は、犯罪の鉄則ってね」
そう言いながら、リクは後ろ手で手を振って部屋の外へ出た。