たぁ坊とるぅ *32page*



電車の中はガヤガヤと楽しそうな声で賑やかだった。



「降りるよ」

「えっ、待って」



プシューっと開いたドアからは、一斉にガヤガヤが降りていく。



「あれ?みんな同じ方向に歩いてくよ?」

「一緒のとこに行くからじゃない?」

「え‥」



ランちゃんに強引に手を引かれながら着いたのは、隣町の高校。



「着いたー。えと、体育館は‥あっちみたいだね♪」



ランちゃんは脚が長いから、私はついてくのに精一杯だった。


開け放たれた体育館の青い扉をくぐると、

そこはもう、

熱気と歓喜が入り混じる、異様な空間。



「え‥もしかして」



掲げられた横断幕には、うちの高校とこの高校の名前。

それから……アイツの名前と、アイツの背番号が書いてある。



「試合‥?」

「そっ。たぁ坊は、あんたに見てて欲しいんだってさ」

「え、私?」



ランちゃんは、ニンマリと歯を見せた。



「3年が引退して、新しいメンバーになったわけ。それは分かるね?」



分かる。うちも3年生が引退しちゃったから、もうすぐレギュラーを決める選抜がある。



「たぁ坊、レギュラー入ったんだって」

「え?」



アイツ‥なにも言ってなかったのに。

私は、なんだか悲しくなった。


まぁ……私が話す隙を与えなかったのかもしれないけどさっ、

そんな大事なことっ!

……そんな、大事なことーー‥


何かがこみ上げてくる。
それを必死で堪えるように、手をギュッと固く締めて、下を向いた。



「ほらるぅ、上いくよっ」

「ん‥」

「なに泣いてんの。前を見なさいっ」



ランちゃんは、無理やり私の顔を持ち上げた。

首がゴキって鳴って、鼻がツーンと痛かった。



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