走り出す、恋。






「これ、だよね?」




線路の上に立つ彼が
にっこりとはにかんだ。


それは、カブトムシを見つけた、虫取り少年のように。





「う、うん!ありがとう」



ホームの下から手渡された腕時計は、なぜか長針の動きが治っていた。





「その時計、おんぼろなんかじゃないよ。強い時計だよ」




腕時計を投げつけた場面を見られていたのかと思うと、顔が急に熱くなる。



彼はそんなわたしに
スッと手を差し出し、また虫取り少年のような笑顔を向けた。






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