♂GAME♀
人混みが作った長い長いトンネルを抜け、ビルの中へ……

ピカピカに磨かれた床は、鏡のように足元を映した。



『神河輝さん、ですね?』

フロントの前に立つ40代くらいの男性。
この人は、一体……

『社長がお待ちです』

軽く会釈をし、私達をエレベーターへと誘導する。

ついに、だ。
ついに本当の意味で、ゲームが終わる。

永かったあのゲームが……


『本当に、よく似てらっしゃいますね』

と、エレベーターに乗り込むと同時に男は言った。

『申し遅れました。 私(ワタクシ)野田と申します。 社長とは古い友人で、今ではすっかりお世話になっております』

野田さんと名乗る男は、輝の顔を嬉しそうに見て優しく笑った。

『あの施設をご卒業されてから行方知れずでしたので、社長も随分心配されてましたよ』
『え? おじさ……いえ、父がですか?』

きっと「おじさん」と呼んでいたのだろう。
「父」という単語に輝自身も違和感があるみたいだ。

『元より、社長は輝さんを迎え入れるおつもりでしたから……』

聞いていた話と違う。

最低な男だと、輝と輝のお母さんを捨てた人だと聞いていたのに……

何が正しいのか頭の中で整理してもわからない。

いい人か、悪い人か。

これから輝と会ってどうなるのか。

喜ぶのか、怒るのか……

輝に意見を求めようにも、輝はギュッと下唇を噛み、何かを我慢するかのようにジッと床を見つめていた。

きっと、輝もわからないんだろう。

『さぁ、この先で社長が待っておられます』

まだ覚悟も決めれてない中途半端な状態なのに、時間は待ってくれない。

もう、社長のいるという部屋の前まで来てしまった……



『……失礼します』


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