♂GAME♀
久しぶりにあった輝は、少し引き締まった気がする。

きっと今までにした事のない肉体労働で鍛えられたんだろう。

それに、髪色を暗くして少しカットしたみたいだ……


『仕事は上手くいってる?』

近くの喫茶店で向かい合わせの輝に聞く。

すると、返ってきたのはバツの悪そうな笑顔だった。

『知らない事だらけで苦戦中。 いかに甘ちゃんだったか思い知ったよ』
『そうなんだぁ……』

そりゃ、音信不通も仕方ないか。

氷で薄まったカフェオレを飲み干し、伝票に手を伸ばす。

と、その時。
すっと伸びた輝の手がそれを制した。

『久々に会うんだから奢らせてよ』

さりげない気遣いも笑顔も、何だか輝じゃないみたいだ。

『私だってちゃんと働いてるんだもん。 割り勘だよ』

だから……
少し寂しいよ……




『この後、どうする?』

喫茶店を出て、とりあえず駅に向かったが、行き先が見つからない。

時間が限られているというのも原因の一つだろう。

『買い物でもする?』
『うん、輝がいいなら』

今思うと、ずっと隣人だったから改めてデートする必要がなかったなぁ。

出掛けなくても、傍にいるだけで幸せだったから……

『いいよ、俺も買いたいものあるし』
『買いたいもの?』
『そっ! 買いたいもの!』

何だろう。
買いたいものって…






どこに行くか知らされる事なく、電車に乗り見知らぬ駅で下ろされる。

駅前を歩く人達は、皆きらびやかや格好で慣れたように歩いていた。


… …しまった。
と思った。

もう少し落ち着いた格好をしてくるべきだった。

渋谷が似合う若い服装は、ここには少し不釣り合いだ。


何だよ… …
先に言ってくれたら良かったのに。

こんな所にいても違和感のない輝に少しの嫉妬。

またもや遠い存在に感じるよ… …




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