♂GAME♀
『寂しい思いさせて、ごめん……』

指輪をはめたばかりの左手に指を絡め、頬を寄せる輝。

『こんなんじゃ大して意味ないだろうけど、寂しい時はコレ見て思い出して』

なんて寂しそうに笑うんだろう。
これじゃ、どちらが置いていかれたのか、わからない。

それに、この指輪。
思いつきで買えるような金額ではない。

きっと、今日来た目的がコレだったんだろう。

『……ばか』

指輪は、本当に嬉しい。

でも、それよりも、
輝といつでも会える毎日が欲しいよ。

もう、遠距離なんて嫌だよ……

距離と同じに、心まで遠い気がするよ……


『本当は、今すぐ綾香を連れていきたいんだ』

と、輝が口を開く。

『今なら…… 今なら綺麗なお金で綾香と2人で食っていける』
『だ、だったら私……ッ』

今すぐに行きたい。
輝のすぐ側でやっていきたい。

『でも駄目なんだ』
『……え?』
『いくら生活できたって、今の未熟な俺じゃ綾香のいる部屋に帰る余裕がない』

輝が目を伏せる。
長い睫毛が影を作り、余計に寂しさを演出する。

『そんなんじゃ、知らない土地で綾香を一人暮らしさせるのと一緒だ』

それでもいいから連れていって。

とは、とても言えなかった。
私に寂しい思いをさせないようにとの、輝なりの優しさだから……


『もう少し慣れて、毎日きちんと家へ帰れるようになったら』

泣きそうになるのを堪えるように顔をしかめた私が面白かったのか、クスクスと笑う輝。

『……帰れるようになったら、何よ』

おかげで続きを聞きそびれた。

『うん、だからさ……

 結婚してくれないかな?』

困ったような、様子を伺うような何とも言えない表情。

『もちろん最初は、結婚を視野に入れての同棲でも構わないよ。 前みたいな……隣人でもいいし』

馬鹿ね。
私が断るわけないじゃない。

『……わかった』

『え……?』

『私……輝のお嫁さんになる』

にっと見せた満面の笑み。

安心したように息を吐く輝。

そんな姿が何だか愛しい。

『ありがとう。 必ず迎えにくるから、待ってて』

ううん。
もう待ってばかりいられない。

『輝こそ待ってて! 私、すぐに輝に相応しい人になるから!』

咲耶の言った通りだ。
やっぱり、ただ待ってるだけの女なんて似合わないよ。
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