♂GAME♀

さっきまで見えていたビルは、もう何処にも見当たらなくて、車窓には海が広がった。

『輝! 海だよ、海!』

湖や川はよく見るけど海なんて滅多に見れないから、恥ずかしいけど子供みたいにはしゃいじゃう。

『熱海だよ』
『熱海? 温泉が有名な?』
『うん。 降りたい?』

……降りたいけど……
切符は熱海を降りる切符じゃないし……

って……

『何これ! 名古屋って……ッ』

切符に書かれた3つの漢字。
「名古屋」は輝が前に行った遠征先だ。

『何よ、観光でもあんの?』
『別に? ただ綾香と行きたかっただけ』

……何なのよ。
名古屋に何があるっていうのよ。

それに、軽々しく「綾香と」って……
私、まだ輝の彼女じゃないんだけど。

……ん?
「まだ」?

まだもなにも、一生ならないっての!






新幹線が動き出して3時間程たった頃。
ようやく切符の示す街に着いた。

『ふーん…… 都会じゃん』

たまに聞く地名だけど来た事はないから、歩くだけで新鮮。

誰も私を知らないし、私も誰も知らない。

智司に何か言われたら嫌だから遠出を望んだけど。
まさか、ここまでしてくれるとは思わなかったなぁ……

『綾香、こっちおいで』

スッと手慣れたように手を差し出す輝。

『人込みではぐれないように』

大きな手が、私の手を強く掴む。

わ、暖かい……
ってか、手ぇ大きい……

何気なく私の荷物も持ってくれてるし。

『……さすが人気ホスト……』

デートが仕事のデリホスだから、慣れてるのね。

『それでも、緊張してるけどね』

と、苦笑してみせる輝。

『やっぱ、お客さんとは違うよ。 綾香は……』

……何よ何よ。
そんな「特別」みたいな事言って……

あんた。
言う事が一々、甘すぎなのよ……
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