1970年の亡霊
 海上保安庁の巡視船『いざよい』は、東京湾を南下し外洋を目指していた。

 夜間の航行時は、通常監視任務時の数倍神経を遣う。

 ブリッジ(艦橋)内の誰もが、緊張の面持ちで周囲に目を凝らしていた。

 湾の幅が一番狭まる三浦半島と千葉県木更津沖を結ぶ線上は、特に注意が必要だ。

 レーダースクリーン上のブリップ(点滅する光点)は、どれも安全な距離間隔を示している。

 だが、レーダーに反応し難い木造小型船舶は、目視で確認しなければならない。

 更に、ここ数ヶ月間というもの、自衛隊の対テロ特殊部隊による夜間上陸訓練があり、頭を悩ませていた。

 何故なら、彼等が使用する船舶が、レーダーに反応しない特殊ゴム製のボートだったからである。しかも、夜の海に溶け込むような塗装が為されているから、尚更発見が困難だ。

「11時方向に小型船舶、微速航行中!」

「探照灯照射!」

「5ノットに減速、取り舵!」

 矢継ぎ早に出される指示。

 肉眼では小さく点でしかなかった小型船は、『いざよい』の乗組員達が初めて目にする形のゴムボートであった。

「例の自衛隊ですね」

「そのようだな」

 探照灯で照らされたゴムボートは、一般のそれとはまるで形状が違っていた。

 左右の舷側がロケット状になっていた為、乗組員達は、その形状からスペースシャトルを想像した。

 数分後、ボート上の人間がはっきりと判別出来る距離迄接近した。



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