1970年の亡霊
 店員の頭が柘榴のように割れ、血と脳漿をそこら中に撒き散かした。

 ここで重松達は大きなミスを犯した。

 直ぐにその場を立ち去っていれば、ひょっとしたら命は助かったかも知れなかったのだ。

 この時、僅か百メートル先に自衛隊の装甲車両が近付いていた。

「隊長、銃声が聞こえました!」

「そう離れていないようだ。全員即応態勢を取れ!」

 指揮を執っていた藤波三尉は、マイクを通して分隊全員へ命じ、自らの89式自動小銃の安全装置を外した。

 銃声がした現場に近付くと、酒屋の中で数人の男達が拳銃を片手に酒盛りを始めていた。

「暴徒のようです。警告しますか?」

 装甲車両の助手席から、副官の速水陸曹が尋ねた。

「うむ」

 部隊長の藤波が警告を命じると、速水陸曹は拡声器のスイッチを入れた。

 自衛隊が近付いた事に気付いた重松達は、それでもまだ高を括って逃げずにいた。

 重松は缶ビール片手に、銃を装甲車へ向け撃ち始めた。酔いで気が大きくなっていた他の者までが、拳銃を撃ち始める。

 拳銃の弾では、装甲車の車体を貫通出来ない。

 装甲車に装備されている84式機関銃が、タタタタと、連続音を響かせた。オレンジ色の曳光弾が酒屋の店内に吸い込まれて行った。
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