1970年の亡霊
 自分の事務所へ戻った曽根崎は、佐官の制服を着た自衛官と会っていた。

「会議の結果はどうでしたか?」

「相変わらず煮え切らない総理だよ」

「大臣からの進言は無かったのですか?」

「いや。こちらの台本通り強気に迫ってはくれたが、いかんせん最後は腰が引けていたよ。やはり所詮は政治家だ」

 政務次官である曽根崎も政治家なのに、と鹿島二佐は思わず笑いそうになった。

「そういえば、今回の活躍で二佐に昇進したそうだね。旧陸軍で言えば、中佐になるのか」

「活躍と言いましても、実際にテログループを制圧したのは実戦部隊です。私は何もしておりません」

「謙虚も時には、美徳ではなく悪徳になる。素直に自分の力だと周囲に誇示してもいいと思うが。まあ、そんな事よりこの後の事だ。政府首脳は、総理を含め、治安出動を認めたがらない。自分達が歴史の一ページに名前を残せるチャンスだというのにだ。この後、どう政府の気持ちを動かすかだが、次の手は打ってあるのか?」

「お任せ下さい」

「まさか、今出動させている部隊を国会に、なんて事はしないだろうな?」

 曽根崎次官は、意味深とも取れる笑みを浮かべながら、聞き返してきた。

「そこまであからさまな事は致しません」

「君を信じるとするよ」

 鹿島二佐は、自分と然程年の違わない次官に深々と頭を下げた。
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