1970年の亡霊
 区の職員である米田敦夫は、来客があると告げられた時、正直うんざりしていた。相手は判っている。最近の暴動騒ぎで一時遠のいていたが、夏前から頻繁にやって来ては、廃校になっている小学校の利用許可を求めていた連中である。

 米田は、既に使用許可が下ろされた別な団体によって使用されているから、新たな使用は無理だと何度も伝えていた。折衝の為に面会を求めているのは、自治会の役員達であろう。案の定、待たせある小会議室へ顔を出すと見知った顔が並んでいた。

「新庄さん、何度足を運ばれても、来年の春までは無理ですよ」

 米田から新庄と呼ばれた六十歳代の男性は、

「我々がお願いしているのは、土日だけの使用をお願いしているんですよ。それも建物ではなく校庭をと言っているのです」

「ですから、何度もご説明したように、あの学校は現在別な団体が使用されています。それも、国と関係したNPO法人へ、研修施設としての仮使用許可が下りていますから、うちとしてもどうしようもないのですよ」

「以前から、区は国がどうのと仰っていますが、あそこの土地は元々区の所有地だったのではありませんか?それがどうして国の機関が使用するのです?」

「それは私のような一介の地方公務員風情には窺い知れない事ですから。上が決めた事に、とやかく地方が口を挟めるものではないんですよ」

「しかし、普段見ている限りでは、建物には人の出入こそあるようですが、校庭は使われていないじゃないですか」

「ですから、あの敷地全てが立ち入り禁止となっていますから、それをどう使われようと、私達にはどうする事も出来ないんです」

 結局、いつも通り話は平行線のままだ。


< 243 / 368 >

この作品をシェア

pagetop