1970年の亡霊
「区の方としましても、あのまま廃校状態で放置して置くと、周辺の不良達の溜まり場になってしまうという心配もあり、管理が大変なんです。常駐の職員を置くとなれば、それだけ区の予算を使わなければならない。民間に学校の跡地を売ろうにも、この不景気ですからなかなか買い手が付かないのが現状なんです。それを来年の春までという期限付きとはいえ、使用料を払って貰えて使って貰えるのですから、区としても大助かりなんですよ」

「その言い方ですと、我々住民が使うと金にはならんと言っているように聞こえますな」

「そういう棘の有る言い方をしないで下さい。区としましても、国の行政機関に関わる法人が使用すると言われれば、従わざるを得ないのが実情なんです。どうかその辺をご理解頂ければと、」

「あのですな、何処の法人が使っているのか判りませんが、貴方は先程廃校のままだと不良少年達の溜り場になってしまう心配があると仰っておったが、今だって何やら胡散臭げな連中が年中あそこに出入りしとるのをご存知ですかな？」

「胡散臭いとはどういう事です？」

「貴方が仰った法人いうのが、一体何の目的で廃校を使用しておるのですか？あの者達が出入りするようになってからというもの、住民や子供があそこの傍を通っただけで目付きの悪い男共に睨まれたり、傍を通るなとまで言われておるんです。その辺を区では把握しておるのですか？」

「それはこちらとしましても初耳なので、一度責任者と会って詳しい事を伺って置きますから……」

「区民税をちゃんと収めとる住民に、学校跡地を有効に使わせた方が、なんぼ理に適っておるか」

「皆さんの仰る事も良く判りますので」

　米田は、何とか場を取り繕って陳情に来た住民達に帰って貰った。
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