1970年の亡霊
　正直なところ、米田にも廃校を使用している団体が何の目的で、どういった内容の研修をしているかまでは判らなかった。

　彼が聞いている事は、防衛省に関連した民間企業のＮＰＯ法人が、研修で使うというだけで、恐らくは、役所の誰もがそれ以上の事は知らないであろう。

　大体にして決済を下した区長自身が、余り判っていない様子であった。

　丸光商事グループ。そのグループ傘下に丸光重工業というのがある。船舶から工業機械、更には航空機にロケットエンジンまでを製造していた。特に防衛省とは深く繋がっていて、国産の兵器だけでなく、アメリカ製のジェット戦闘機は全て丸光重工業でライセンス生産されていた。国防産業に関して言えば、戦前から、時の政府とは深い関係にあった企業であった。

　日本人なら誰でも知っている大手企業丸光グループは、商社から重工業、自動車、電機、航空機に至るまでグループの傘下にした巨大コングロマリットであった。

　明治維新後から財閥として君臨し、軍事産業としても深く国と関わって来た。戦後、ＧＨＱによる財閥解体で会社存亡の危機を迎えたが、それを乗り越えると、前にも増して巨大化した。特に防衛産業に関しては、ほぼ独占的な位置にある。

　そういった一流企業のＮＰＯ法人だからこそ、自治体も廃校施設の使用を許可したのであろう。

　そんな企業が胡散臭げな人間を出入りさせる筈など無い、そういう思いが、根っからの役人である米田にはあった。

　以前にも増して役所への風当たりが強くなった昨今、住民達のありとあらゆる苦情が中間管理職の職員へ被さって来る。トップはいつの時代も頬かむりして逃げ回るだけ。

　しょうがない、一度あの周辺を見回ってみるか……

　米田は、これでまた要らぬ仕事が増えたと思い、苦い表情を見せた。

　この時点に於いて、米田はまさか自分がとんだ災厄に見舞われるとは思ってもいなかった。





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