1970年の亡霊
 まだ十月だというのに、札幌では初冠雪を記録し、奄美大島では記録的なゲリラ豪雨で死者まで出た。

 今年は初頭から異常気象だらけで、景気は上向くどころか益々停滞気味になり、政情も安定の兆しを見せない。しかも爆破テロに暴動と、国民の不安はどんどん募るばかりであった。

 更には、中国との関係が、尖閣列島問題のみならず、爆破テロで中国大使館が被害を受け一層悪化。中国本土では地方都市を中心に反日デモが繰り返され、対外的にも政府は窮地に追い込まれていた。

 海外の通信社は、挙って日本は最早立ち直れない程の状況に追い込まれたとさえ書き連ねていた。

 自動小銃を手にし、警備の為、街頭に立つ自衛官の姿を最初目の当たりにした市民達は、その物々しさに眉をひそめていた。

 しかし、それも数日のうちだけで、いつしかそういった光景など意に介さなくなっていた。

 中には、自衛隊が至る所で警備をしてくれているお陰で、凶悪犯罪が減ったと喜ぶ者も居て、歓迎する向きもあった。事実、暴動鎮圧後は少なくとも首都圏での凶悪犯罪は極端に減った。

 桜田門の交差点にも迷彩服を纏った自衛官が銃を手に立っている。

 信号が変わるまでの間、柏原はその光景を複雑な思いで見ていた。

 この混乱を演出したかも知れない自衛隊に、警視庁が護られている。

 これを皮肉と呼ばずして、何を皮肉と呼べばいいのだ……

 思わず迷彩服姿の彼等を睨むような眼差しを、柏原は送っていた。



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