1970年の亡霊
 柏原が目をしかめるようにして見ていた迷彩服姿の自衛官は、霞ヶ関周辺だけでなく横浜でも多く見られた。

 一時開催が危ぶまれていたAPECであったが、日本は自衛隊を警備の中心にする事で、日本の威信を海外に見せようとした。

 テロの脅威は日本だけでなく、どの国に於いても頭を悩ますところであった。

 それだけに、テロに屈して首脳会議を中止する訳には行かなかったのだ。

 その警備に就いた部隊の中に、横須賀少年工科学校OBで編成された予備自衛官の一団と、園田の姿があった。

「君達が、自ら志願して今回の任務を引き受けてくれた事を、私は心から嬉しく思う。予備自衛官だからといって、君達が正規隊員と何等違う事はないのだと、世間に見せてやって欲しい」

「大丈夫です。みんな判って居ります。我々が今日まで存在して来た意義は、正にこの時の為ですから」

「うん。予備自衛官初の任務出動という記念すべき日だ。絶対にこのAPEC警備を無事に終わらせてくれ」

「はい!」

 園田は彼等一人一人と手を握り、それぞれが配置へと就くのを見守った。

 彼等を見送った園田二尉のケータイが鳴った。

「はい……判りました」

 短く一言だけ言ってケータイを切ると、彼は待機所を出、車に乗り込んだ。

< 247 / 368 >

この作品をシェア

pagetop