1970年の亡霊
 園田は複雑な思いを噛み殺していた。

 部下を死地へ向かわせる……

 それは軍人である以上、逃げられない事である。

 俺も君達の後を追うよ……

 そう決意してはいても、やはり最初から死地へ赴かせる役目というものは、自分が死刑宣告人にでもなったかのような心持になる。

 園田は、今回のミッションに関して、正直乗り気では無かった。

 当初から予定されていたミッションには、今回の事は含まれていなかった。

 爆破テロを装い、実行犯に仕立て上げた連中を習志野で襲撃し、更にはその後に起きた副次的な暴動を自衛隊が収束させた。

 国民全体が自衛隊に全幅の信頼を寄せている。

 時を同じくして、尖閣列島問題が起こり、現政府の弱腰外交が問題になるにつれ、いよいよ自衛隊増強論がメディアで当たり前のように取り上げられているにも拘らず、その兆しが見えて来ない。

 元が寄り合い所帯の政権政党は、その根幹が非戦論主義である。

 以前の政権であったなら、最早この時点で事はなったであろうが、園田達を影から支援している者は、痺れを切らし始めている。

「もっと大きな花火を打ち上げろ」

 事業仕分けだとかで、防衛費の特別予算枠が削られてしまった事も、支援者達の気持ちを焦らせているのだろう。

 だが、それにしてもという思いが園田の正直な気持ちではあった。


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