1970年の亡霊
「何故だ!?」

 要はどうして爆発が起こらなかったのか、まるで理解出来なかった。

「畜生!間違いなく信管を起動させたんだぞ!?」

「仕方ない、止めを刺すぞ」

 大きな歩幅で車の方へ岡田は歩き出した。

 要が後を追いながら、両手の拳銃を乱射した。それはまるで、自分の不手際で任務が頓挫しそうになった事に怒っているようであった。

 岡田を追い越し、自分達が乗って来たバン諸共、銃弾の雨を注いでいた要の身体が、突如がくんと崩れ、次には脳漿を撒き散らかしながら仰向けに倒れた。

「要ぇーっ!」

 倒された要の傍へ駆け寄ろうとした。

 そこへ新たな銃弾が飛来して来た。

「死に損ないめ……」

 その男は息も絶え絶えになりながら、スクラップとなった社用車に凭れ、撃ち尽くした銃から弾倉を抜いていた。

 岡田は男に銃を向けた。

 引き金を何度も引いた。

 次々に吐き出される薬莢。

 岡田の視界の中で、男の姿が大きくなって行くとともに、秒単位で人間の形を成さなくなって行く。

 最後の銃弾が放たれた時には、岡田の足下に肉の塊となってしまった男の身体があった。

 空になったマガジンを外し、予備弾倉をポケットから取り出そうとした瞬間、岡田の左太腿に衝撃が走った。

 倒れそうになるのを堪えようとしたが、次の一弾が彼のこめかみを貫いた。

 朽木が倒れるかのように、岡田の身体はアスファルトに跳ねた。

 通報を受けて漸く駆け付けた警察官達が、恐る恐る岡田の傍へ近寄った。


< 361 / 368 >

この作品をシェア

pagetop