This is us



「げぇっ…これ上るの?!」



真上へと伸びる、急な階段だった。


「人込みよかマシだろ?」

そう言って涼しい顔して上り始めた彼。

私も仕方なく一段一段上っていく。

たちまちこめかみを汗が滑らかに伝っていくのが分かった。

鳴り響く鈴虫の声と蝉のハーモニーが、より強くなる。


上り終えた時には、すっかり呼吸が乱れていて。

汗がぽたぽたとタオルに滲んで消えていった。


そこはブランコと砂場しかない小さな公園で。

そこら辺の建物よりも高い位置にあるから、景色を見渡すにはとっておきのスポットだ。

もちろんあの急な階段がネックとなり、私も上った事はなかった。


「は〜…疲れた…」


私は一目散にブランコへ腰を下ろす。


彼は、やっぱり眉一つ変えずにいて。

蝉達に紛れて、微かに聞こえる笛や太鼓の音の中、話す言葉が見つからなかった。


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