亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
世間はどう思うだろうか。少なくとも、貴族という肩書で男爵が統治しているこの街の民は、白い目でこの屋敷を見上げてくることだろう。
民の溜まりに溜まった不満など、抱えたくも無い。最悪、反乱が起こる可能性も有り得るのだ。
これは、脅し以外何物でもない。卑劣な手である事など百も承知だ。そんなことは分かっている。
………だが、今は関係無い。こうすることが必要なのだ。どんな目で見られようが、私は平気だ。
…切り札だ。
…赤子だ。赤子がいるのだ。
これで少しは男爵の考えも変わるのではないか。
いずれにせよ、男爵にとって他に選択肢は無い筈だった。
…だった、のだが。
「―――…おめでたい方ですね、伯爵」
………あろうことか、途端、男爵の無表情は嘲笑を浮かべていた。
逆転したかに思えた形成は、変わってなどいない様だった。
何故だ。何故貴様は笑う。おめでたい?どういう意味だ。
気持ちの悪い冷や汗を流しながら、伯爵は困惑の色を帯びて揺らめく瞳で男爵を凝視し続けた。
「分かっていないのは貴殿の方だ、可哀相に。種明かしでもして差し上げましょうか」…と、意味の分からない男爵の台詞が頭を駆け巡る。
……何だ?何なのだ?私は何を知らないのだ?
知らない、しかし知ってはいけない何かが、ニヤリと不敵に笑う男爵の口から語られようとしている。
恐怖さえ、感じた。
出来れば、知りたくない。だがしかし、無情にも…その願いは、次の男爵の言葉で打ち砕かれた。
「―――…一度も会っていない男女に、子が授かる筈がないではありませんか」