亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
目にも止まらぬ速度でロキの片腕は背に回り、三槍共通の武器である同じ長い槍を掴んだ。
よく使い熟されたそれは熱い空気を薙ぎ払い、ロキはあっという間に突きの体勢に入った。
黒槍の長となった所以には、この卓越した戦術の高さもある。
ドールは槍も扱うが鎚で、レヴィも槍だが、三人の中ではロキが一番だ。
ロキの実力を以ってすれば、向かってくる切っ先を弾き返し、相手の喉元を貫くことも充分可能だ。だが一瞬……男の槍に、違和感を覚えた。
………殺意が、感じられないのだ。
不意に、鋭い切っ先が勢いを無くしたかの様に足元へ下がった。
……意図の理解出来ない不可解な動きに思わず手を止めた。
その………直後だった。
「―――あばよ」
不敵な…しかし何処か憂いを秘めた笑みと共に一言だけ小さく呟かれ…。
…男の槍の切っ先は、ロキの操るバジリスクの岩肌に突き刺さった。
「おわっ…!?」
たいていの刃なら弾き返すバジリスクの肌だ。多少の攻撃を受けても、どの傷も浅いものに留まる。
だが走行中にいきなり前脚を刺されては、バジリスクも化け物じみた姿だがれっきとした生き物である。痛がらない筈が無い。
予想だにしていなかった不意打ちの一突きにより、バジリスクの走りは急激に鈍った。
奇声を上げながら身体をよじるバジリスクの上でバランスを崩したロキは、槍を片手にそのまま宙へ投げ出された。
グルグルと回り、歪む視界の端で、どんどん遠ざかっていく赤槍達の後ろ姿。
どうにか受け身を取って一面砂の大地に転がり落ちたロキが顔を上げた時には………赤槍達は、既に豆粒程の小ささにまで遠ざかっていた。
………離れていく騒音の群れを、ロキはじっと眺める。