亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
床に膝を突き、壁に手を彷徨わせるイブは……既に、半分がフェーラの身体に戻りつつあった。
額の第三の目玉は当の昔に見開きっており、戦慄く口の端からは大きな牙が外に出ている。華奢な手も赤黒い血管が浮き出て痙攣を繰り返しており、長い爪が出たり引っ込んだりを繰り返していた。

……この様子では、彼女のフェーラとしての本能が暴走するのも…時間の問題だろう。

彼女は、仕方ない。仕方ないけれど。





……俺も、か。

カッと大きく開いた額の第三の目が、自分の震える両手を映していた。その手には…あの忌々しい野獣の、人間とは異なる肌の色がうっすらと浮き出ている。
……リストは、フェーラと人間のハーフだ。どちらの血も、この身体に流れている。アレクセイ曰く、どちらかと言えば人間よりのハーフなのだそうだ。……フェーラは、大嫌いだ。その大嫌いな野獣の血が…俺の中に通っている。そして今、こんな時に……俺は獣なのだと、再確認させられている。

認めたくない、嫌いで嫌いで仕方無い忌々しい野獣の顔が……こんな災いなんかで…。

ああ、苛々する。




「……俺は………人間だ…っ…!………人間だからなっ…!」

こんな下らない神様の遊びなんかに翻弄されてたまるものか。俺は、俺だ。
……むき出しになりそうだった牙を気合いで引っ込め、リストはその場で勢いよく立ちあがった。ギョロギョロと蠢く額の第三の目も、強引に瞼を閉じた。



「………まーた…そん、な事…言っちゃって…。……甘、ちゃん…リスト……」

「………うるせぇ…黙ってろっ…」

まだ笑うくらいの余裕はあるのか。ああおかしい、と嘲笑を漏らすイブを、リストは睨みつける。使えない奴は引っ込んでいろ、と呟き、リストは部屋の出入り口であるドアにフラフラと覚束ない足取りで歩み寄った。

豪華な装飾が施されているドアは、廊下に通じる唯一の出入り口である。勿論、レト達もこのドアを通って出て行った筈なのだが……黒い魔法陣でドアが完全に封印されているのを見たリストのこめかみに、青筋が浮かんだのは言うまでも無い。

封印とはどういうことだ。…いくら自分達が王子等に危害を加えるかもしれないからって……封印とは、酷過ぎる扱いではないだろうか。

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