亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
ユノ。
ユノ。
ユノ。
「――さっさと………走れええぇぇぇ!!」
飛来した一際大きな氷の刃に向かって、ドールは叫びながら鎚を振った。
渾身の力を込めた鎚は、目の前の空間を大響音と共に殴り付けた。
広範囲に渡る目に見えない衝撃波が、氷の群れを凄まじい勢いで弾き返す。強大な力の余韻は直ぐには無くならず、床に張った氷に大きな亀裂を走らせた。
突如生じた風圧によって弾かれた氷は、高い天井や床など至る所に突き刺ささる。
硝子が砕け散る様な音色が、風に乗って聞こえてきた。
音色はきっと、もっともっと大きくなる。沢山の音が、謁見の間に満ちていく。
だが、それらを耳にすることは無いだろう。
長く暗い廊下をがむしゃらに走りながら、レトは思う。
闘いの不協和音が、だんだんと遠くなっていくのが分かる。
駆ける自分の足音が、こんなにも乱れている事などかつてあっただろうか。
こんなにも荒く息を乱す事が、あっただろうか。
自分が何故走っているのか分からないなど、馬鹿な話があるだろうか。
何から逃げているのか、分からないなど…。
…否、分かっている。
分かっているけれど。
誰か、教えて…。
僕は。
「………っ…ふっ………ぅあっ………あ…あぁ…」
僕は、どうしたらいいの。
案内など、無い。
走る先の道にも、この先の運命にも。
誰も、いない。
独りだ。
たった独り。
逃げて、逃げて、逃げて。
………。
…助けて。