亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
国を発った時は、サラマンダーはもう一羽いたのだ。
同行していたバリアン兵士らのものだったが、そちらはこの雪国に入ってすぐ、偵察として飛ばしていた際に不幸にも嵐に巻き込まれて死んでしまった。
残った貴重な一羽も、事切れようとしている。………あれは特別、自分やドールに懐いていたため、落胆と共に悲しみも大きい。
………今の状況も加え、問題は多々あるが…一番困っているのは…。
(………長の機嫌が戻らねぇ…)
ハイネは深い溜め息を、吐いた。
この広い洞窟内の片隅をちらりと見遣れば、そこには渦中の人物の姿が一人。
焚火に手を翳そうともせず、ただ背を向けてごつい壁と向き合ったまま…無言だ。
敷物代わりとして敷いたマントの上で胡座をかき、今は縮んで小さくなっている愛用の鎚を胸に抱えて俯いている。
………後ろ姿は小さな女の子なのに、伝わってくる覇気は戦前の戦士の如く、やけにピリピリしている。
何だかおかしいそのギャップは、もう見慣れたものだ。
昼間の予想外の騒動から気絶していたドールは、日が暮れた頃に目を覚ました。…それから今に到るまで、ずっとあのままである。
ちなみにあの戦場の最中で分かれたバリアン兵士とは、まだ合流していない。…まぁ、その方が気軽でいいが。
「………長―…」
寡黙な背中に向かって、試しに声をかけてみる。しかし案の定無視されたようで、返事は無い。
「…長―…」
「―――」
「………………怪我の具合はどうですか…?」
どうせ無視の一点張りだろう、とハイネは何気なく身体の事を気にかけて言ってみると、弾かれた様にドールはこちらに振り返り、怒気を含んだ声で怒鳴り散らしてきた。
「―――っ……怪我なんて…してないわ!!馬鹿な事を言わないでちょうだい!!」