亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
「―――…ハイネ相手じゃ物足りないでしょう?……いいわ…遊んで…あげようじゃない………気が済むまで…!」
切れた唇から滲む血を手の甲で拭い、ドールは再度鎚を構えた。
ギラギラと光る獰猛な眼光が、こちらに向けられた。
…何処からか。…ひらひらと、真っ赤な蝶がドールの目と鼻の先を掠めていく。
瞬く鱗紛の向こうに映る、動かぬ父の姿からは……目を、逸らした。
あたしは今まで、何を見てきたのかしら。
…現実とは程遠い、一人勝手な願望。
掴んでは消えて、追い掛けては離れていく…結局は、何も無かったんだって分かる………意地の悪い夢想。
そうか。
あたしは、多分…ずっと。
ただ、夢を、見ていたんだ。
目が覚めた今なら分かる。
………滑稽、だこと。
ほんの小さな動作一つで振るった鎚を避けられた途端、岩をも砕く大きな手が、横っ面を殴打してきた。
口の中が切れた様だ。
奴の手が触れた箇所の全てが痛い。
頭蓋骨が砕けたかと思った。
頭の中で、幾つもの星が散っている。
一瞬全身が痺れ、受け身も何も取れなくなった身体は面白い様に吹き飛び、気持ちの悪い浮遊感の後…強烈な痛みが背中から襲ってきた。
勢いよく地面に激突した瞬間、呼吸が止まった気がした。
結っていた髪は解け、真っ白な雪に塗れた。
「―――…長…っ…」
洞穴の外。降りしきる吹雪の下で横たわる痛々しい姿に、ハイネは弱々しい声を振り絞った。