亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
………すみません。すみません、大長。
…旦那、様。
「―――…兵隊さんよ…………鎚って物の………本来の使い方を知ってるかい…?」
振り翳した鎚の先を見据え、ドールが消えていった空の彼方に目を細めた。
「―――…鎚ってのは、な…………………鉱山の固い固い岩壁を…崩すためにあるんだよ。………あっという間に…粉塵にしちまうのさ…」
「………何だと…?」
「おい………貴様…!」
自分が何をするつもりなのか感づいたらしい兵士達は、それぞれ声を張り上げるが…動揺は隠しきれない様子だった。
………役立たずで、すみません。
「…止めろっ…!!」
……最後までこんなで、すみません。
「誰か、止めろ!あの馬鹿を止めるんだ!!」
どうか、ご無事で。
………長。
…いえ。
「―――お嬢様…」
きれいな弧を描いた鎚の先端は、真っ白な大地を、その空間ごと叩いた。
巨大な空気の波紋は、足元から周囲の木々へ、雪の丘へ、その上へ、更に上へと走り。
吹雪を掻き消す轟音が、大地の揺れと共に鳴り響いた。
純白の山が、身を震わす。
蓄えた白き衣が、その揺れでずり落ちる。
闇の中。
雪崩の嵐が、群れを成した。
白い波が、全てを喰らっていった。