亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
昼間とは大違いの、この肌寒い夜という静かな時間。
星明かりだけが、唯一の光だった。
ランプに明かりも点さず、真っ暗な室内で窓際に腰を下ろし、ただ…夜空に浮かぶ数多の星を眺めるのみ。
これが不思議と飽きないのだ。
星の観察など趣味でも何でも無いのだが、ここ最近は毎晩こうやって飽きもせずに眺めて…気が付けば朝を迎えている。
時々、自分は夜行性なんじゃないかとさえ思う。
この静かな夜の闇が、心地よい。
昼間の騒音や、大臣らが自分を呼ぶ声や、血気盛んな兵士達の張り詰めた空気から、解放されるこの夜は………居心地がいい。
一人になれる。
一人にしてほしい。
だから…少々困っている。
今、自分の足元で跪き、泣きながら頭を下げる付き人の存在に。
それをほとんど無視して、星の数を数えはじめる。いつもの軽い調子の声音とはまるで違う、弱々しく泣きじゃくる声が聞こえる。
「………………何故、ですか。何故なのですか………主よ………アイラ様…!……何故、何もされないのですか…!何故動こうとも、見ようとも、されないのですか…!」
「………カイ…頭を上げないか。…まるで虐めているみたいじゃないか。よしてくれ」
そう言ってアイラは艶のある前髪を掻き上げ、微笑を浮かべた。
必死の訴えにも、ただ笑みを返すばかりのアイラに、カイは躍起になる。
「アイラ様は…よろしいのですか…!………お願いです、お願いですから………………私に、御命令を…!」
「………」
「御命令を………御命令を………!………アイラ様…貴方は………当の昔に気付いておられる筈です…!なのに…なのに何故………何故…!………地下の、魔石の件が…何よりの証拠ではありませんか…!!……夜が明ければ、あの側近も気付く筈です…!」
「………………黙っていれば…いいことだよ、カイ」