亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~


冷たい純白の結晶は、髪を撫で、頬を滑り、コートにしがみついた。
それらを軽く払い落とし、そのまま…ドアの隙間に身体を滑り込ませた。




外は、やはり寒かった。

予想はしていたが、この酷な寒さは予想外だった。
…雪掻きはされているようだが、それでも地面は厚い雪で覆われていた。
ここ中庭の地面はタイルの様に薄っぺらな石が敷き詰められている筈なのだが、今はただの真っ白なキャンパスが広がっている。


…急速に冷えていく両手を擦り合わせながら、中庭の奥へと歩み出した。

目の前をちらつく雪。
前がよく見えないが、特に気にもせず歩きつづける。








中庭のちょうど中央辺りにまで来てから…ふと、立ち止まった。
















ああ、いた。








中庭の隅にある小さな椅子。

そこに腰掛ける人影を見付けて、再度歩み始めた。









ニ、三メートルくらい離れた所で、また立ち止まる。

前方にいる人物はこちらの存在に気付いていないのか、せっせと動く手元から視線を外そうとしない。

聞いたことのない歌を口ずさんでいて………何となく、声をかけてみた。
























「―――…刺繍って、楽しいの?」












何かの花のデザインだろうか。綺麗な純白の花を描いた刺繍に夢中になっていたその人物は………少し驚いた様に、こちらに視線を向けてきた。



…色白で、華奢で………何処か抜けた感じの女だった。

…こんなに近くで見たのは、いつ以来だろうか。

















「…答えてよ。………刺繍…楽しいの…?」

…その呆けた顔を見ていると、何だか苛々してきた。
何も言わない彼女に向かって、少しむきになってもう一度言った。
















「………ええ、楽しいわよ」

「…こんな寒い中庭で…?」

「………ええ」

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