亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~



毛布を退け、目を擦りながらユノはなんとか起き上がった。
…本のちょっとした動作一つにも体力を要する。
余程身体が衰弱しているのだろう。

そろりそろりとユノは部屋の壁際に移動し、隣室に通じるドアの傍にまで歩み寄ると、様子を探るべく聞き耳を立てた。
ドア一枚隔てた向こう側からは、数人の話し声が聞こえてくる。

僅かな隙間から漏れ出る明かりをバックに、幾つかの人影が動いていた。






「禁断の地は、お城を囲んだ針山地帯全域のことをいうの。あの辺りは森も無ければ雑草一本無い辺鄙な土地でね、動物はあまりいないのだけど、中でも狂暴な獣が巣くっているわ。……昔はお城に通じる一本道があったのだけれど…今はそこも危険な獣道になっているの」

「………比較的安全な道は、無いのでしょうか…?」

「そうねぇ………裏道、みたいなものならあるわ。………秘密の道がね。戦争で敵が攻めてきた際、お城から逃げるために作られた道が、確かあった筈よ。私も昔、そこを通って逃げたの」

「おお!?画期的じゃん!」







交差しあうのは、しわがれた老婆の声と、若い男女の声。
内容は自分にとっても極めて重要な話である。………どうやら、この小さな家の主は老婆であるらしい。その老婆の話を聞いている男女が何者かは分からないが、警戒するにこしたことはないだろう。


(…僕が眠っている間に何があったんだろう…?………………レトは…?)






…レトが、いない。


いつ何時、何処に行くにも常に一緒にいて、自分を守ってくれるレトの姿が無い。

……彼は…どうしたのだろうか。







(………もしかして…僕等は敵に捕まったのか?……そうでなければ…こんな民家にいるわけが無いし…)


…狩人は、あまり街に寄り付かないと聞くし、街の民とも接点を持とうとしない。
それを前提に考えると………やはり、悪い方にしか考えられない。
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