亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
その奥にいるのは、明るいオレンジの長いポニーテールの若い女。
唐突に現れたユノの存在にも何ら驚く様子も無く、テーブル上のパイに黙々と砂糖をかけている。その匙を握る手の動きは、止まる気配が無い。
「……起きたならちゃんと言え。こそこそするな、王子様」
「………」
全部最初から、お見通しだったようだ。…見下ろさせているこの自分の状態が何とも間抜けに思えてくる。紅茶を啜っている車椅子の上品な老婆は、柔らかな微笑みをこちらに向けていた。
…ユノは自分に集中する視線の多くに何度か目を合わせ、恐る恐るその場で立ち上がろうとした。
「………貴方達…何者なんですか?………僕をどうす…」
「―――………ユ゛ノ…?」
…すぐ傍から、弱々しい裏返った鼻声が聞こえた。
誰が聞いても情けないその声を目で辿って行くと……。
「………」
「………」
薄暗いドアの、後ろ。
部屋の角の、隅の隅で抱えた膝からだらしなく涙と鼻水が流れる顔を上げ、ぽかん…と呆けているレトの姿。
その足元では、アルバスが無心で壁を嘴で突き、穴をほがそうとしている。
…まるで座敷わらしの様な彼と見つめ合ったまま、数秒の奇妙な間の後、ユノが口を開いた。
「………レト!なんでそんな、どうしようもなくて泣きじゃくっている迷子みたいになってるの!?それより心配し…」
「―――…っ…ユ゛ノォー!!」
何の予兆も無く、更に泣き始めたレトは、感動の再会とばかりにユノに半分体当たりの勢いで抱き着いた。
一切の悪気が無い頭突きを顎に喰らったユノは、勢いをそのままにどうと倒れ込み、床に半身を強打した。