亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
痛いよ痛い、肩が痛いんだけど…と、強打した肩を庇いながら形のいい顎を摩るユノ。
レトはその彼の腕にしがみつき、ひたすらむせび泣いていた。
………顔を埋められている袖が生温く湿っていくのは、この際無視する。
「………も……もう………目、がっ………目が覚め…ないか…と………思っ………」
「起きてるじゃないか。ちゃんと」
「………う…うん。……………良かっ……良かった……良かったね……良かった…ね…」
………涙でぐちゃぐちゃのレトの顔を見て、ユノは思わず苦笑した。
赤く腫れた両目は、今まで散々泣いていたことを物語っている。
…自分と同じ歳の、しかも泣く子も黙る狩人の男の子とは到底思えない。…改めて、彼がただの泣き虫であることを理解する。
「………僕、泣き虫は嫌いだよ」
…そんな台詞をポツリと吐けば、レトの啜り泣きはピタリと止んだ。…泣くのを必死で堪えている
その様子がおかしくて仕方ない。
溢れる涙も、だらしなく垂れた汚い鼻水も、服を掴む震える手も、何もかもが、なんだか嬉しかった。
「………だけど、レトは好きだよ。見てて飽きないもの」
「…………………う…ん………」
崩れた泣き顔が、ぎこちない笑顔に変わる。
笑うことに慣れていない彼の笑顔の中で、それは一番笑えていると思った。
「…何が何だか分からないけど………一応、言っておくよ。………心配してくれて、ありがとう…」
「………うん…」
………部屋の床で繰り広げられる、幼い少年の友情劇を見下ろしながら、リストは頭を掻いた。
誰が見ても見目麗しい、世間一般では美少年の枠に入る二人の周りにだけ、花の散る背景が見える様だった。