亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~

困惑気味に静かに詰め寄ってきたリストを冷めた目で見上げ、ユノはまた一つ大きな溜め息を吐く。

「………無いよ、一度も。解釈として正しくは、こうさ。……………………戦争を、起こそうとしていた…だよ」



















………遥か大昔から続く、三つの大国で成り立ったこの世界。

その壮大な歴史の中には、文面でしか語られていない大規模な戦争はいくつも存在する。
大国三つが刃を交えた戦として名高いのは、『神声戦争』と呼ばれるものだ。
何度かあったこの戦争は、数多の命が散らされた。

各国の王の一声で、多くの魔の者や、魔獣、召喚獣の類いが戦場を血肉で汚した…今では考えられない壮絶な時代があった。
戦争の発端やそれまでの経緯は、残念ながら詳しく書かれていない。戦争を起こした各国の王の末路も記されていなければ、どのような王であったのかも分かっていない。
その、偉大なる王の名だけが、今にまで残っているだけだ。






そんな戦乱の時代を振り返っても、デイファレトという国が戦争を起こしたという事実は無い。
三大国の内、このデイファレトが最も平和主義を貫く国だ。









その国が………戦争を発起しようとしていた…?


………すぐには信じられない事だ。













「…時の経過と共に自然や文化が変わっていくのと同様………平和だ、平和だ、って言っている人の考えも、変わっていくものなんだよ…お兄さん」






人とは、感情というものがあるためなのか。

他の生き物と違い………常に、変わる生き物だ。







見掛けではない。

中身が、である。









平和を好む人間が、ある時を機に突然狂人と化す。


それは………フェンネルでも、例外ではない。
< 837 / 1,521 >

この作品をシェア

pagetop