亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
「………戦争発起の話は…デイファレト王49世が最初だったらしいわ。………極秘だったの」
車椅子ごと向き直り、微かな微笑を添えてイーオも語り出す。
「………どうしてそんな事を思い付いたのかは分からないわ。……私が思うに…いつバリアンに攻め落とされるか…っていう恐怖に駆られていた故の、考えだったんじゃないかしら。…一向に止まないバリアンの攻撃は激しくてね……正直な話、気が気では無かったでしょうね。被害妄想は膨らんで、バリアンだけじゃなくフェンネルも攻めてくるかもしれない…とまでいってしまったらしいわ。………平和主義の王は戦争は起こさなかったけれど………その考えは…その子供へと受け継がれて………徐々に、大きくなっていったわ」
…城に住まう、形無き神の使者の『守人』も、王の考えには反対していたらしい。
彼等守人は神に忠実であり、常に神の教えに従うため、王に助言をして悪政を防ごうとする者達であるから…戦争を起こすなど、まず有り得ない事だったのだろう。
「…でも、守人の話なんかに王は耳を貸さなかった。………聞いた振りをしているだけだったの。………けれどやっぱり………神様には、何でもお見通しだったみたい。…その頃から徐々に………冬が、長くなっていったらしいわ。…何処もかしこも凍り付いて……その内、草木が生えてこなくなった。……バリアンの恐怖に加えて、住みにくい土地への変貌。………他国へと移る民も、出て来たとか…」
…同時に、原因不明の奇妙な病も現れた。
症状は様々で進行は遅く、じわじわと身体を蝕むため気付きにくい。
全ての病人は皆、若くして死んだ。
「………デイファレト王50世は……その病に倒れたの。…まだ、若かったわ。………その子供の王子は、まだ幼い身でありながら……仕方なく玉座についたわ。………勉強が大嫌いで、やんちゃな……デイファレト王51世。…貴方の御祖父様よ」