亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
頭を捻って導き出した兄の答えに、背後のリイザは数秒の無言を返した。
自分よりも高く、広いその兄の背中を眺めながら、リイザは閉じていた口をそっと開いた。
「………違和感、と申されますと…?」
「そのままの意味さ。…違和感だよ。………あのケインツェルという男を見る度に、私は言い知れない不安に駆られるんだ。………それが何なのか分からないから、私はこう言う。………違和感、だよ。リイザ」
「………」
「………例えば、そう……あの男は……仮面を被っている。あの不評な笑顔が描かれた、厚い仮面さ。………あの男を見る度、私は…真実の顔ではなく仮面を見ている。…毎日毎日、仮面を見ている。人形を見ている。見えそうで見えない本体があるのに、やはり仮面しか見えない。…そういう違和感に似ているよ。……まぁ、奴の違和感の塊は、もっと他にあるけれどね…」
「………」
…訳の分からない事を話すだけ話し、アイラは軽快なリズムの口笛を吹きながら靴の踵を鳴らした。
再度天井を見上げ、一般人では解読不可能な古代文字の一文字一文字を読み上げる。
「私はな、リイザ」
「はい」
「お前の被っている仮面の下の表情を、私は知っているよ」
「左様ですか」
夕闇が降りてきた外には、もう昼間の光は僅かしか残っていなかった。
正面で歌を口ずさんだまま佇む兄の長身は、上半身は既に暗がりに覆われ、たとえこちらを向いていたとしてもその表情さえも判別し辛い様な状態だった。
アイラの口笛だけが、廊下に響き渡る。
…何の曲だっただろうか。