亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~



……ぐるりと周囲を見渡せば、積雪から頭を覗かせてこちらを睨む影がポツポツと…その数およそ十数個。
自惚れる吹雪の歌声に混じって、低い唸り声があちらこちらから聞こえてくる。


…怠いな、と思い切り溜め息を吐くと、少し離れた場所で剣を構える仲間の一人が、唇を動かして合図をしてきた。




―――挑発で矢を一本放った後、お前が先に前へ行け…と言っている。




………所謂、注意を引く囮。







(え………嫌…)

そういうお前が行けよ、と指笛で答えれば、男はあからさまに眉をひそめた。



…第一、話が違う。

今回の、嫌々ながらも引き受けた仕事。
首都程ではないが、中の上くらいの大きさの街の周辺で、近頃野犬が頻繁に出て人を襲っているという。
…その野犬を蹴散らすという内容で引き受けた依頼では、野犬はよくいる狼で、数匹程度だ…という話だったのだが。






………来て、見て、苦笑を浮かべた。


…蹴散らせと言われた野犬は、狼なんぞの子犬ではなかった。
狼よりも大きくて、牙は太く鋭利に光っていて、伏せてしまえば雪とそっくりの白く長い体毛で………正式名称は確か、『ブロッディ』。

狩人の中では野犬と呼んでいるが、野犬は野犬でも嫌な犬である。
…牙を除けば、一見可愛いらしいフワフワの毛玉の様だが、それがこの銀世界ではカモフラージュとなり、加えて気配を消されると近付かれても気付かない。

………おまけに群れで移動するため、一匹見付ければ周囲には三十匹いると言っていても過言ではない。











何が、野犬だ。勿体振らずにブロッディと言え。

何が数匹だ。何か増えてるじゃないか。






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