ツインの絆
「昔源次郎じいちゃんがとびを止めた時、
残った職人たちに相応の金を渡した。
だけど親方を頼って仕事をしていた職人たちは、
持ちなれない大金の使い道で人生を狂わせた人もいたらしい。
精さんや正一さんたちもその口だった。
おばさんが見つけ出した時は、皆悲惨な暮らしをしていたと聞いた。
おばさんはその意味もあって野崎組を、
今度はすぐに消えないような、しっかりとした体制の野崎組を作ることに意欲を燃やしている。
今うちにいる見習いたちのように、
孤児で高校へ進まない子供たちが、
胸を張って生きて行ける技をつけてやろうと思っているのだ。
ああ、野崎組はとても良い雰囲気で動いている。
とびの子供でとびになりたいと思う子もいる。
初めは悟たちもだ。」
孝太は想定外の言葉を出して大輔を、
いや、一緒に聞いている孝輔をも驚かした。
「広志さんや悟さんもとびになりたかったの。」
大輔には、中学時代から一番の成績を守り、
東大、ハーバード、と言うエリートコースを進んで弁護士になっている悟、
山根のところは【鳶が鷹を産んだ】と言われている悟。
そして、悟のように目立たなかったが、
いつの間にか税理士になり、株式会社野崎組のために、
職人ばかりの中で、一人颯爽とした服装で
事務的な事を一手にこなしている広志が
とび職人になりたかったと言うことは信じられなかった。
和也に関して言えば、しょっちゅう抱かれたり肩車をしてもらったりしながら、
父ちゃんが大好き、僕も父ちゃんのようなとびになる、と言っていたのは覚えている。
しかし、幼い大輔でも、和也には無理だ、と思っていた。
だからこそ、父の言葉は想定外だった。