ツインの絆

「おい広志、そんな事はどうでもいいじゃあないか。」



孝太が慌てて広志の言葉をさえぎった。


確かに事実だが… 
そんな事は息子達に聞かすような事ではない、とその顔は言っている。



「でも、今のところ、おじさんの鳶の勘はすごいから皆信頼している。
だけど、本当はしっかりとした根拠の眼を持つ建築士がいれば、
もっと安心して仕事が出来るでしょ。

野崎には下手な仕事は回せない。
そんな風評が流れれば最高。
僕は大輔にそういう人になって欲しい。」



広志はそう言って、大輔をその切れ長の涼しげな瞳で優しく見つめている。


孝太は満足そうな顔をして三人の若者を見回している。


実のところ、広志の構想としては、
野崎の将来はますます充実したものになるはずだ。


株式会社野崎組のコンサルタントと称している和也が、
おじさんの仕事を本格的に手伝うようになれば、
今よりももっと大きい仕事を紹介するようになる。


今まではおじさんが大手ゼネコンに話を持ち掛け、
二・三年に一度の割で海外での仕事も体験させてくれている。


それは、野崎のとびたちにとって、とびとしてのプライドにつながっている。


悟も弁護士として関りながら、さり気なく顧客に野崎の宣伝をする。


だからこその顧問弁護士だ。


と、三人の間ではそういう話になっていたのだ。


とび職野崎組はとびの集まり、だが株式会社となればまた違って当たり前。


一級建築士の存在はあったほうが良く、
それが野崎の子ならば言うことは無い。


三人とも若いが、それなりに野崎の将来を真剣に考えているのだ。
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