ツインの絆
「大輔、それほど深刻に考えなくても良いのだよ。
大学は建築学部のあるところならどこでも構わない。
だって肝心なのは大学の四年間をいかに過ごすかが問題であって、
大学の名前など問題ではないよ。
大輔が本当に自分の目標を野崎組、と考えているのなら時々は現場の様子を見たり、
この前言っていたように一緒に働くのも良いかも知れない。
そうすれば全体の様子が分るから建築士の試験も受け易い。
別に急ぐ事も無いのだから,
ゆっくり構えて挑戦すれば必ず目的は達成出来るよ。」
野崎組に、と言う話の言いだしっぺは大輔だったが、
何となく話が大きいものになり、気後れを感じている大輔。
自分は広志とは出来が違う、という思いだ。
「そうなれば良いけど… 」
言葉も… 消極的だ。
「良いけど、では無くて、そうする、という意識の問題だよ。
あきら兄ちゃんは… 」
と、広志はいきなりあきらの名前を出して来た。
すると孝太も懐かしそうな顔をして話に入っている。
「そうだったなあ… あいつは頑張った。
大輔、お前知っているか。
あきらは小学校の後半から一人前の不良だったのだぞ。」
と、大輔に話しながら、広志の顔を見た。
ここからは俺が話す、と言うような顔だ。
ずっと一人で頑張って来た孝太にとって、
あきらは絶対的に信頼できる、やっと出来た弟のような存在だ。
孝太が野崎組を名乗った頃から、見習いとして側にいた。
もちろんあきらも、孝太の事を、かしら命、と、公言している。
二人にとっては、道子の存在が拍車をかけた形になってもいるが、
とにかく、とび職人・野崎孝太にとって水島あきらの存在は不可欠なものだ。