君に幸せの唄を奏でよう。
「それで、今日はライブの打ち合わせをしないといけないので、ここで失礼します」
早く行かないと亮太達が待ってる!あたしは、強引に話を終わらせて出口に向かったけど……。
「高橋、ちょっと待て」
先生の言葉で、出口に行きたくても引き止められる。お願いだから、早く帰らせてよおおぉぉ!
「…先生、何ですか?」
心で叫びながら、冷静に笑顔で対応する。
「お前らのバンド名は、何て言うんだ?」
「Sounds mind【サウンズ マインド】です」
まさか、こんな所でバンド名を紹介するとは思ってもみなかった。
「ほう…なるほど。“心に響く”か…。いい名前だな」
「ありがとうございます。じゃあ帰ります!」
バンド名を褒めてくれてすごく嬉しかった。だけど、これ以上話しが長引かないように切り上げて帰る宣言をする。
「おう。気をつけて帰れよ」
先生に挨拶をして、急いで職員室を出た。玄関に着くと、不機嫌そうな表情で仁王立ちをしている亮太と瞳が合う。
「遅いぞ!」
「ごめん。先生に捕まってて」
ご立腹の亮太に、苦笑いをして謝る。
「唄希ちゃんお帰り」
「ただいま~」
佳奈が、いつもの様に笑顔で言ってくれたので安心した。
「何で捕まったの?」
核心を鋭く突く浩ちゃんに、ドキッと嫌な感じに心臓が跳ねる。浩ちゃんの言葉を聞いた亮太と佳奈は、あたしの答えを待っているかのようにじーっと見つめる。
3人に沈黙で見つめられ、額から冷や汗が流れ落ちる。この状況に耐えることが出来ず、全てを吐き出す決意をする。
「先生に、バンドをしているのがバレた……。特に亮太ごめん!あんただけ正体を明かしちゃった」
「「「はいッ?!」」」
みんなは、あたしからの予期せぬカミングアウトを聞いて叫ぶ。
「なんで、バレたんだよ!?」
特に、自分だけが先生にばれてしまった亮太は焦っていた。
「ラ、ライブの予定の紙を、うっかり見られちゃって……」
「うっかり見せるな!」
亮太は、あたしに噛みつく勢いで怒る。
「でも、見られちゃったら仕方ないよね」
「まぁ、済んだ事を言っても仕方ないよ」
佳奈と浩ちゃんが、フォローしてくれた。それを聞いた亮太は、はぁーと呆れながら溜息をつく。
「まぁ確かに……。此処で文句言ったって、状況は何も変わらないし時間の無駄だな。それよりも、早く行ってライブの打ち合わせしようぜ」
二人のおかげで亮太の怒りも収まり、あたし達は打ち合わせをしに店に向かう。