君に幸せの唄を奏でよう。



「……そうだな」

俺がそう言うと、女は驚いた表情をする。

何やってんだ、俺……。今までの自分が段々情けなくなった。

そのせいか、俺の中にいる“弱い自分”が、俺の意思を無視して勝手に口を動かす。

「だけど、歌が好きな奴もいれば……大ッ嫌いな奴もいるんだ」
「………」

俺は情けなくなった。女は、何も言い返さず黙って俺を見つめる。

「……じゃあな、邪魔したな」

俺はそう言い残して、この場を立ち去った。いや、早く立ち去りたかった。

土手に停めていたチャリに、乗り家へと向かう。

しばらくしてから、女が何かを叫んでいるのが聞こえたが振り返らなかった。


――――
―――――――


「…い…おい、奏!」

突然、俺を呼ぶ声が聞こえてきて、ハッと我にかえる。顔を上げれば、心配そうに見つめる宮木が居た。

辺りを見渡すと、講義が終わったみたいで俺たち以外誰も居ない。

「なんかあったのか?顔色が変だぞ?」

宮木は、心配そうな表情で俺に尋ねる。

「いや、バイトのし過ぎで寝不足なだけだ。心配かけて悪かった」

俺は嘘をつく。まさか、昨日の出来事のせいだと言えなかった。

「あんま無理すんなよ」
「ああ……」

宮木は、俺の嘘を素直に信じた。少し罪悪感を感じる。

「宮木、自販機行こうぜ」

俺は、話しを変えるために言った。俺達は、自販機に向かう。


< 34 / 284 >

この作品をシェア

pagetop