魔女の報酬2 ~果ての森編~
 ふとメディアの髪に優しくふれてくる感触がある。はっとして、顔を上げると、そこに不思議そうにメディアを見つめる王子の真っ青な瞳に出会った。

「おはよう、メディア」

「おはようって……」

 この状況下で、あまりに気楽げな王子の言葉に、メディアは一瞬唖然としてしまった。

 王子の瞳が心配げに曇る。

「どうして、泣いている?」

 王子の指が、涙に汚れたメディアの頬にふれようと伸ばされる。それを、とっさに乱暴に払いのけて、メディアは一気に怒りだした。

「だれが! だれが! 泣いているですって!」

 彼が目覚めたら、言おうと思っていたことなど、すっかり彼方にすっ飛んでいた。

「いったい、私があんたの不用意な行動のためにどれだけ苦労したと思っているのよ。少しは自覚しなさい、自覚!」

 自分のことは大きく棚に放りあげたメディアの際限もなく続きそうな小言を、王子はなぜか楽しそうに聞いていた。

 宮廷の貴族の娘たちの思わせぶりなそぶりや、もったいぶった言い回しにいい加減にうんざりしていた彼には、メディアのように歯に衣を着せない直截なもの言いは、むしろ好ましかった。

「ちょっと、ちゃんと聞いてる? もうマヌケでバカでお人好しで、手がかかるたら、ありゃしない。これじゃ、一生目が離せないじゃないの」

 そうメディアが思わず本心の一端をのぞかせた瞬間、彼は彼女を自分の胸の中に引きさらった。

「それじゃあ、僕は一生マヌケでバカでお人好しでいるよ。君がずっと僕の側にいるように」

(END)
< 39 / 39 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:9

この作品の感想を3つまで選択できます。

  • 処理中にエラーが発生したためひとこと感想を投票できません。
  • 投票する

この作家の他の作品

魔女の報酬3~封呪の守り人~

総文字数/38,098

ファンタジー71ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
   性格のよろしくない王子様プラスとっても変な王様。  それだけでも手に負えないと言うのに、さらに変わり者な妹姫まで現われて。 ------------- 「ね、なにか魔法を見せてよ。魔法使えるんでしょ」 「彼女にここで魔法を使われると、城が壊れる」 「いいんじゃない。私は城が壊れたって、困らないもの」 「君が困らなくても、僕が困る」 「お父様は、喜ぶと思う」 --------------    そんな魔女メディアのちょっと普通じゃない日常? に、思いもかけない危機が忍び寄る。 「魔女の報酬」完結編ついに登場。
魔女の報酬

総文字数/11,705

ファンタジー21ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
「魔女というのは、突き出して曲がった鼻を持つ、物凄い年寄りと相場が決まっているものだ」 「カエルにでも変えて欲しいの?」  赤毛の魔女メディアの元を訪ねたのは、若く美しくけれど性格はよろしくない王子。 彼の依頼は竜退治。 そして、魔女が要求した意外な報酬とは? ----------- 未薗 希紗様、しのきるか様、風夢匠様素敵なレビューをありがとうございます。 感謝いたします。
一なる騎士

総文字数/132,910

ファンタジー212ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
 大地を豊穣に導くは『大地の王』。  王を聖別し、守護するは『一なる騎士』。  しかし、かの者にはもう一つの相反する勤めがあった、王の断罪者としての……。  庭園の花が狂い咲いた夜、一なる騎士は己の真の主に出会った、容赦ない天啓の下に。 『大地』の運命が動き出す。 *********** うまの様、愛水様、雨宮れん様、素敵なレビューをありがとうございます。

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop