闇夜の略奪者 The Best BondS-1

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　店を出てすぐのエナは激しく後悔していた。
　「あーもう！　悔しいっ」
　歴史はまだまだ浅いが自由貿易、自由市が盛んなこの都市は自然と様々な人種や職種が集う為、日々耳を塞ぎたくなるほどの活気に溢れている。そんな中でもエナの地団駄はよく衆目を集めていた。拳を握り締めてばたばた暴れていれば目につくのは当然だ。
　「しかも暑いっ！」
　北にあるといっても季節風の影響でここ二、三ヶ月は蒸し暑い気候が続き、涼しげな服を纏う人が多く目に付く。その服装に統一性がまるでないのは、もうすぐ開催される年に一度の【トルーア市祭】の為に遠路遥々やってきた者が多いからだ。そのせいもあり、過密になった人口が更に体感温度を上げている。服の系統を見れば出身地がわかるような人も多いが、エナはぐるりと周囲を見回し顔を顰めた。
　「マジで闇商人と賊ばっかだし……むさっくるしい」
　民族衣装以上に目立つのが商人や盗人、略奪者が好む服装だ。
　資本主義の競争社会の中で華々しい発展を遂げたかに見える、北の大陸で唯一経済的に権力をもつようになったこの都市を事実上支えているのは、実は闇市だったりする。
　外交関係上制限または禁止されている武器やクスリ、奴隷などを当たり前のように売買するそれは二ヶ月毎の新月の日に行われ、この都市に大きな利潤と発展を与えている。
　次に闇市が開かれるのは、トルーア市祭が終わった後すぐということになっていて、今回は大きな祭りの後だけあって、密かに、だが盛大に行われるという裏情報は世界各国、広く出回っていた。
　出回っているとはいえ、勿論それを知る人は限られている。主に売る物を強奪という形で支給する海賊や盗賊といった類と、それを買い取って売る闇商人たち、そして商品を買う有力貴族や大きな裏組織などである。
　まあ、いずれにせよ真っ当な生き方をしている人でないのは確かであろう。都市に危害を加えないことを暗黙の了解にしてはいるが、闇市の行われる前後にはありとあらゆる犯罪が増えているという現実が闇市に集まる人間の人柄を証明していた。
　特に海賊の船が停船所に止まっているときなどは被害が増え、便乗犯も多く出没するものだから都市の治安は、実は悪化の一途をたどっている現状にあるのだ。