闇夜の略奪者 The Best BondS-1
 「なんでよっ? ここまで暴露させといて、どゆコト!?」
 狼狽と怒りが混じったような声音で喚く姿を見ながら、ジストは短くなった煙草をもう一息吸ってから灰皿に押し付けた。
 「だぁってさぁ……」
 無邪気そうな笑顔に切り替える。
 「俺だって、命惜しいもん。そんな無茶ばっかりしてたら長生きできないよ?」
 その言葉にエナの放つ雰囲気が変わる。殺気立つ、というのが一番正しい表現かもしれない。色違いの双眸に炎のように激しい感情が宿るのを見た。
 エナの利き腕が激情に任せて振り上げられる。
 「の……!! …………っ!」
 結果的に、ジストの頬が打たれることは無かった。
 振り上げた状態のままエナは歯を食いしばる。
 「の?」
 苦しいのかと聞きたくなるほど眉を寄せ、視線を落として小刻みに震えるエナが何を言おうとしたのか見当もつかず、ジストは問い返す。
 やがて、振り上げていた手から力が抜けた。そのまま、席に落ち着くことも答えることもなく、エナは踵を返す。
 「……ったく……」
 少女の小さな呟きを耳が拾った。
 ゆっくりと半身を振り返らせたエナのその表情をジストはじっと見つめる。
 「何ゆわせかけんの。……馬鹿」
 「!」
 その表情にジストは目を見開いた。
 静かな声音で微笑む彼女は、あまりに悲しそうで、切なそうで。
 「もーいいや。バイバイ」
 背を向けたまま片腕だけ掲げて気だるげに振るエナを反射的に引き止めそうになり、ジストは自身の腕を押し留めた。
 ごちそうさま、という言葉を添えて店を出て行った少女の背中をジストはしばらく見送っていた。
 先ほど無意識に動きかけた腕に目を落とす。
 「俺らしくもないな……」
 口元には小さな笑みを湛え、ジストは新しい煙草を取り出した。
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