闇夜の略奪者 The Best BondS-1
 ある程度詰め終えるとエナは自身の腰に幾重にも巻かれていた糸ベルトを外してその袋の口を縛りつけ、余った部分で輪を作って首を通した。肩に食い込んで少し痛いが、この痛みが報酬の量に比例していることを思えばエナの機嫌は良くなる一方だ。
 一息ついて視線を巡らせたエナの動きが部屋の最奥で止まる。視界に入ったのは壁の隅に立てかけられた一振りの剣。
 「触るべからず」という札が柄にかけられている。
 取り立てて高価な装飾が施されているわけではない剣が宝物庫にあることに加え、わざわざ触るなと書かれるような剣。
 「……こういうの、言わぬが花ってのかな。雉も鳴かずばってやつ? それともヤブヘビ?」
 楽しげに言葉遊びをしながらエナはその剣に近づき手に取った。
 柄から伝わるぴりぴりとした小さな刺激が妖刀である証。
 「ミッション完了っと」
 呟き身を翻そうとした、その刹那。
 「――!!」
 大きくて硬い何かがエナの口元を背後から覆った。
 呼吸さえも奪うその余りの力強さにエナの背筋が凍りついた――。
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