闇夜の略奪者 The Best BondS-1
 随分大きな部屋割りにエナは口をへの字に曲げて頭を掻いた。
 これだけ大胆に分けられてしまうと、財宝の在り処を特定し辛い。
 この階にありそうなものといえば、食料庫、武器庫、備蓄庫、宝物庫。では残りの扉は何だ。
 下調べをしてくるべきだったか、とエナは顔を顰めた。
 仮にも昼間、情報屋と名乗る男と無駄な会話をしていたのだ。彼が知っているかどうかはさておき、聞いておかなかったことが今になって悔やまれる。
 「ま、今更ゆってもね」
 一人ごちてエナは、どちらにしようかな、と脳内で選定の儀を始める。つまり、勘のみに頼ることにしたのだ。
 出たとこ勝負もいいところであるがエナは生来、悪運強く出来ていた。
 選んだ扉は右通路の奥。
 そろそろと移動し、音を立てないようにドアのレバーを下げるが途中で引っかかる。
 カンテラを手に取りドアの隙間を覗き込み、施錠されていることを確認したエナは鞄から針金のようなものを二本取り出した。
 鍵穴にそれを突っ込み、がちゃがちゃと動かすその手つきはまるで手術を請け負う医師のよう。
 ほどなくして、かちゃりという音が響いた時、エナは鍵に向かって人差し指を口に当てて「しーっ」と息を漏らした。傍から見れば滑稽な姿である。
 扉を開けたエナはにやりと笑みを浮かべた。
 床に無造作に積み上げられた財宝。
 エナは扉を入ってすぐ横にあった出っ張りにカンテラを掛け、腰に手をあてた。
 「らっきー」
 小さいながらも弾んだ声でそう言ったエナは辺りを見回し、財宝が詰め込まれたまま放置されている袋を見つけるとそれをひっくり返した。
 ガラクタから価値のありそうなものまでが床にぶちまけられる。
 エナは袋に穴が開いていないかを確認すると、宝石の類を次々とその袋に放り込んでいった。価値があっても重たいものや売り裁くときに時間が掛かるようなものは選ばない。如何に逃げやすく、如何に迅速に金に換わるかが重要なのだ。そういったものは商人の記憶にも残りにくく、後々追われる心配も無い。
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