闇夜の略奪者 The Best BondS-1
 「ほう……! やはりそれなりの使い手らしい」
 死神は前言を翻し、感心したように言を次いだ。
 「その程度の剣では役不足ということか」
 その言葉でゼルは剣の折れた原因を知る。
 力だ。籠(コ)められた力に剣が耐え切れなかったのだ。
 ――力も加減しなきゃならねェのかよ!
 エディが此処にあれば、と思わずにはいられない。
 決して楽には勝たせてもらえない男を相手に、このハンデは大きすぎる。
 元々、脳で考えるよりも早く体が動く。あれやこれやと考えながら戦えるタイプではないのだ。
 「それでも、やるしかねェってことか……!」
 剣士たるもの、立ち向かうことを勝算で決めたりはしない。
 戦うべきときに背を向けることは、あってはならない。
 「たとえ刺し違えることになっても、な」
 そのとき、死神は無の光を瞳に宿し、ふ、と嘲った。
 「……莫迦(バカ)め」
 その言葉が耳に届いたと同時に、背中に衝撃が走った。
 目を瞠る。
 「……こ、の……っ!」
 肉が裂ける。背中に焼けるような痛みが広がる。
 ゼルは予期していなかった背後からの攻撃に倒れ込み、痛みに体を捩る。その首筋に剣先が押し当てられた。
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