闇夜の略奪者 The Best BondS-1
 大鎌の柄を肩から外し、構えるその姿にゼルは喉を上下させた。
 流石に一筋縄ではいかない相手だということを肌で感じる。
 だが、それが彼の中の闘争心に火をつけた。
 強い相手を目の前にしたときに血が滾(タギ)る――それは紛うことなき戦士の血。
 馴染みの無い柄の掴み心地に多少の不安はあれど、それでも彼の瞳は燃える。
 「さあ、おっぱじめよーぜ」
 戦いの火蓋が切って落とされる。
 まず動いたのはゼルだった。
 飛び掛り様に剣を振り下ろす。
 ゼルは片目を細めた。
 鎌の刃で受け流され、手首を返す。が、首を狙ったそれは届かない。
 普段使っている剣よりもほんの少し短い剣では間合いの感覚が狂う。
 「……くそ……使い辛ェ……!」
 しかも、辺りが暗いせいで鎌の動きを予想するのも一苦労だ。
 ゼルは飛び退き、忌々しげに舌を鳴らした。
 「噂に聞いた義手の剣士とは、この程度か」
 たった一振り、剣を交わしただけで死神はそう呟いた。
 手応えの無さを感じ取られた。それは、なんという侮辱。
 「っせェな!」
 熱くなる心のまま、睨み付ける。
 「未熟だな……。心(シン)が足らぬのか技(ギ)が足らぬのか……」
 「知るかよ!」
 横に薙ぐ大鎌を避ける。
 上から下へ、下から上へ。首を狙ったもの、頭を狙ったもの、胴や足を狙ったもの。
 立て続けに繰り出される攻撃をゼルは全て紙一重で躱した。
 首を狙った一撃をしゃがむことで遣り過ごし、屈伸した力を使いそのまま攻撃へと転じる。
 下から振り上げる。死神が一歩下がる。だが今度はきちんと間合いの中。
 刃同士がぶつかる音が激しく闇夜に響き渡る。
 と同時にゼルが手にしていた剣が真っ二つに折れた。
 「……な……っ!」
 ゼルは小さく叫ぶと慌てて死神の間合いの外に出る。
 剣の扱い方が悪かったわけではない、と自信を持って言える。
 刃こぼれをしているわけでもなかった。
 ゼルは信じられない面持ちで、着地したところに転がっていたまた別の剣を拾い上げる。
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