闇夜の略奪者 The Best BondS-1
 「お頭、すみません、このような者の侵入を許しちまいました。すぐ、片付けますから」
 団員の内の一人が起きたのだ、と痛みの中ゼルは理解する。
 落ち着いた声音は、その男がこの船の中でそれなりの地位を持っていることを表していた。二人に挟まれ、ゼルは自身が勝算を失ったことを知る。
 動けばその時点で首が飛ぶ。
 「まあ待て、ランガード」
 今にも言葉通りの行動をしようとしていた団員を制止した死神はゼルの目の前まで来て屈みこんだ。ゼルの髪を掴み、ぐいと引き上げる。
 「何故、あの娘のように逃げなかった。海に飛び込むくらいの隙はあっただろう」
 顔を歪めながらも、ゼルの精神は痛みに支配されてはいなかった。
 「泳げねンだよ! それに、逃げたらオレは剣士の誇りも失っちまう」
 その誇りを失ってまで生き続ける意味などゼルには無かった。
 剣士であること以上に大切なものなど無いのだ。
 「……あの娘は助けにくると思うか?」
 死神の問いにゼルはごくりと喉を鳴らした。
 そして、笑う。
 「……来ねェことを祈るさ」
 半分嘘で、半分本当だ。
 あの少女が来たところで、きっと何も変わらない。
 だが、この言葉が彼の命を繋ぐものとなったのだ。
 「……そうか」
 死神はそれだけ言うと立ち上がった。
 「柱に縛り付けておけ。餌に使う」
 「餌……ですか?」
 怪訝そうな返しに死神はゼルの横を通り過ぎながら答えた。
 「エディが奪われた。この男はそのエディの使い手だ。予断を許すな」
 かつかつという足音が船内へと消えていくのを床に顔を張り付かせたまま聞きながら、ゼルは背後からの攻撃を許した自身の甘さを悔いていた。
 少女と同じ日、同じ時間に、同じ船に乗り合わせたことが彼の不運の始まりだった――のかもしれない。
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