闇夜の略奪者 The Best BondS-1


 其処はいつも乾いた風と土埃の匂いがした。
 緑の匂いと水の匂いは最も縁遠い場所だった。
 決して豊かとは言えない土地だったけれど、其処に暮らす人は皆温かかった。自給自足の生活はそれなりに大変ではあったが、その分穏やかで、村全体が助け合って生きていた。
 「おう、オマエら! 今帰りか」
 日が暮れかけた頃、夕食用の井戸水を汲み上げていると聞きなれた声が重なって聞こえ、ゼルは振り向いて声をかけた。
 「あ! ゼル兄!」
 「ただいま!」
 「水汲み? 手伝おっか?」
 寺子屋での勉強を終えた弟妹達だ。
 「おいおい。ミューに言わせンなよ。そりゃ男のオマエらが言うトコだろが」
 「そーよ、ミューったら。貴女、漬物石も持てないのに……」
 セリアは十一歳の割にはしっかりしていて、おませさんだ。明るく無邪気な八歳のミラーユに対して必要以上にお姉さんぶるところがある。
 「セア、多分、漬物石の方が重いわよ」
 双子のテリアがやんわりと微笑む。セリアとは対照的にテリアは雰囲気も物腰も柔らかい。持って生まれた上品さ。
 「ゼル兄、おれ手伝うよ」
 九歳になったばかりの三男、ディルグレイが水桶に手を伸ばした。
 「ディルが持ったらオレが持たないわけにいかねーじゃん」
 次男のアルラウドが仕方ない、と言った風にディルグレイの手から水桶を受け取った。
 いじめっこ気質の十三歳のアルラウドは、でしゃばりなディルグレイとしょっちゅう殴り合いの喧嘩をしている。どちらが年上かわからないくらい我儘なのだが、くしゃりと笑う顔で大概が許されてしまう特な性質を持っている。
 「……っつーか、ロウは?」
 いつも一歩遅れて付いてきている筈の末っ子、ロウウェルの姿が見えないことを疑問に思って聞いてみる。
 その途端、その場に居た全員の弟妹の表情が強張るが、誰も何も答えない。
 「アル? 一緒に帰って来るようにいつも言ってンだろ? ロウはどうした?」
 農作業や家事など、母の手伝いをする為に寺子屋には行っていないゼルはいつも全員で帰ってくるように弟妹達に言い聞かせていた。
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