闇夜の略奪者 The Best BondS-1
 「えー。帰るかと思って喜んだのにぃ」

 七人目のホステス――もとい、ジストの隣を陣取った七人目の女性はなんとも正直にそう言った。
 甘いお菓子のような可愛らしい雰囲気をしているのに、その目はエナを睨みあげている。
 その視線をさらりと受け流し、エナはジストをねめつけた。

 「あたし、忙しいの。あんた達と違って」

 女性は激しい怒りをその瞳に宿したまま、驚いたような表情を作り上げた。

 「あらまあ、きっと親の躾が悪いのねぇ、性格悪いわ、とっても」

 その発言にエナは冷めた目を向けた。

 「自分の性格は自分のものよ。でなきゃあんたの親が可哀相」

 女二人の視線が絡まる。火花でも散りそうな険悪極まりない雰囲気にようやく割り入るジストの声。

 「二人とも、その辺にして?」
 「あァ?」

 不機嫌丸出しのエナの視線を受けて、ジストはやっとその場を取り繕うことに決めたらしい。
 ジストはにっこりと綿菓子のような女性に笑いかけた。

 「また、今度ね」

 その一言で追い返されるのは自分だと理解した女性は一瞬悔しそうな顔をしたが、結局文句を言うことはなかった。それでも去り際にエナを睨み付けることは忘れなかったが。
 ようやく台風が一つ去っていったが、どちらかといえば自分を追い出して欲しかった、とエナはストローで氷を弄る。

 「そんなに拗ねないでよ。ジストさんは、とぉってもモテるけど、こう見えてすっごく一途だから安心してね? 拗ねてるエナちゃんも可愛いけどね」

 勘違いも甚だしい発言に、返す言葉が見つからず溜め息でやりすごす。
 よくもまあ、臆面もなくこんな言葉が吐けるものだと感心さえしてしまう。

 「で? あたしはあんたと話すことなんて何も無いんだけど」

 「あは、嬉しいな。阿吽の呼吸っていうのかな、こういうの。話さなくても心は通じ合ってる? 的な?」

 「馬鹿? ってゆか、本気で会話する気、あんの?」

 出会って間もない人間と何をどう通じ合えというのか。
 なかなか噛み合わない会話にエナは付いてきたことを本気で後悔しはじめていた。
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